農業総合センター所長挨拶

■放射性物質対策研究の推進■
 福島県は、3月11日の東日本大震災による地震と津波によって中通りと浜通りでは大きな被害を受けました。これに加えて東京電力福島第1原子力発電所の事故に伴う放射性物質の放出により、主に浜通り中部から北西部、中通り北中部が放射性物質によって汚染されました。これにより葉菜類を中心とする野菜、牛乳、シイタケ、タケノコ等から放射性物質が検出され、多くの品目は既に制限が解除されましたが出荷制限や摂取制限となり、大きな問題となりました。
 また、福島県が行った水田・畑土壌の放射性物質のモニタリング調査では、地域によって程度に大きな差があるものの広範囲に汚染されていることが示され、4月初めの段階では今年の稲作が可能であるかが不明で、多くの農家が将来の営農に不安を抱く状況に置かれました。その後、農林水産省から土壌の放射能が5000ベクレル/s以下であれば作付け可能との基準が示されましたが、土壌モニタリング調査を実施した原子力発電所から20q圏外では、計画的避難区域以外の地域は5000ベクレル/s以下で稲の作付けが可能なレベルでした。
 しかし、程度の差はあっても放射性物質に汚染された福島県において生産された農産物が安全・安心であることを示し、計画的避難区域内の一部や20q圏内で認められる高濃度汚染地帯で営農を再開するためには、放射性物質の汚染対策に関する研究を進め、放射性物質による汚染のない安全な農産物の生産技術の開発が不可欠です。
 このため農業総合センターでは、農林水産省、(独)農業・食品産業技術総合研究機構、(独)農業環境技術研究所、学習院大学、東京大学等7大学及び県の行政・普及・関係団体等と連携し、各種支援を受けながら以下の研究を進めます。また、研究の実施に際しては、地域の農業者等のニーズを踏まえ、「現場主義」の観点に立って実用性の高い対策技術の開発を進め、その成果については県内各地で速やかに活用することとしています。
 このことにより放射性物質による汚染のない安全な農産物の生産技術を開発し、消費者に福島県農産物が安全・安心であることを示し、福島県農業の発展に貢献することを目指します。

 T 放射性物質の分布状況の把握
  1 水田および畑地における放射性物質分布状況の把握
  2 樹園地の土壌および果実中の放射性物質の動態調査
  3 草地、飼料作物、家畜における放射性物質の動態調査
 U 放射性物質の簡易測定法の開発
  1 土壌中の放射性物質の簡易測定法開発
 V 放射性物質の吸収量の把握
  1 農作物の放射性物質の吸収量の解明
  2 飼料作物における放射性物質の吸収量の解明
  3 出荷前等の放射性物質の早期推定技術の開発
  4 土壌の違いによる移行係数の推定
  5 品種の違いによる吸収量の解明
  6 異なる放射性物質濃度と吸収量の解明
 W 放射性物質の除去・低減技術の開発
  1 土壌表面に残留する放射性物質の除去・低減技術の開発
  2 ほ場中に残留する放射性物質の低減技術の開発
  3 水田における放射性物質の動態
 X 放射性物質吸収抑制技術の開発
  1 吸着資材による吸収抑制技術の開発
  2 カリウムによる吸収抑制技術の開発
  3 硝酸カルシウムによる吸収抑制技術の開発
  4 有機物施用による放射性物質吸収動態の解明
  5 有機物残渣に含まれる放射性物質の動態解明
  6 耕うん法による吸収抑制技術の開発
  7 摘葉処理による放射性物質吸収抑制技術の開発
  8 袋かけ処理による放射性物質吸収抑制技術の開発
  9 乳牛における牧草中の残留放射性物質吸収抑制技術の開発
 Y 農産物における放射性物質の除去技術の開発
  1 農産物内における放射性物質の分布
  2 加工による放射性物質の動態
 Z 農作業における放射線被曝低減技術の開発
  1 農作業における放射性物質の影響調査
  2 施設内における放射性物質の影響調査
  3 樹園地内における樹皮と汚染と管理作業中の被曝状況の実態解明
(平成23年7月)
福島県農業総合センター所長 
                                     門馬  信二       


■水稲新品種「天のつぶ」への期待■
 福島県知事から9月2日に公表されたとおり、農業総合センターでは水稲新品種「天のつぶ」(旧系統名:福島9号)を育成しました。福島県は新潟県、北海道、秋田県に次ぐ第4位の米の生産県ですが、県内の主食用品種の作付けは「コシヒカリ」が約6割、「ひとめぼれ」が約2割を占めております。こうした中で米の安定生産や販売戦略などの点から、「コシヒカリ」や、「ひとめぼれ」と肩を並べ、第3の良食味品種となり得る優れた本県独自品種の育成が待ち望まれていました。
 このたび育成した「天のつぶ」は、平成7年に「奥羽357号」に「越南159号」を交配し、その後選抜と適応性検定試験などを続けた結果、その優秀性が確認され、平成21年に育成を完了したもので、15年の年月をかけて育成されました。
 「天のつぶ」は、「コシヒカリ」や「ひとめぼれ」よりも栽培しやすく、食味がよい上に、収量が安定しており、品質も優れております。主食用は勿論のこと、食味にこだわる中食・外食用米としても今後の普及が期待される品種です。現在、平成24年秋の市場出荷を目指しています。
 「天のつぶ」の特性の概要は以下の通りです。
 ・熟期は「コシヒカリ」と「ひとめぼれ」の中間で、出穂期は8月10日頃です。
 ・稈長が短く耐倒伏性で通常ほとんど倒れません。
・収量は「ひとめぼれ」と同等〜やや多です。
・食感はしっかりしており、「コシヒカリ」や「ひとめぼれ」並の良食味です。
・粒は「ひとめぼれ」よりもやや大きく、白未熟粒は少ない。
・穂いもち病抵抗性は「コシヒカリ」や「ひとめぼれ」より強く、強です。
・耐冷性は「コシヒカリ」や「ひとめぼれ」よりも少し弱く、やや強で栽培適地は標高300m以下の平坦部です。
 米価の下落傾向が続くなど米を巡る状況には相変わらず厳しいものがありますが、「天のつぶ」が核となって県農業がさらに発展することを期待しているところです。
 なお、「天のつぶ」という品種名は、穂が出るときには天に向かってまっすぐ伸びる稲の力強さを、そして天の恵みを受けて豊かに稔る一粒一粒のお米を表しており、県が公募し、応募があった348点の中から選ばれたものです。                                                                                                                    (平成22年10月)
「天のつぶ」立毛全景
(場所:福島県農業総合センター)
稈長比較
(左から「天のつぶ」「ひとめぼれ」「コシヒカリ」)
  
福島県農業総合センター所長 
                                     門馬  信二_____
                                 

■普及する技術しない技術■
  試験研究機関には農業現場における様々な問題を解明・解決するとともに、生産性の向上、省力・軽作業化、高品質化等につながる新技術・品種を開発することが求められています。
 しかし、多くの労力と資金を費やして開発された新技術は、開発した研究者は当然農業現場で有効な技術と考えているはずですが、実際に普及していく技術、限定的にしか普及しない技術、残念ながら研究者の意図に反してほとんど普及しない技術に分かれてしまいます。
 現場で役に立つ技術を開発するように、開発した技術は現場で役に立っているのか、どの程度普及しているのか等の研究開発に対する要望や、開発された技術への評価に対する関心が、最近特に強くなってきております。これらのことについては、私も管理職の立場になってからはよく言ってきたことでもありますが、研究者は現場の役に立つ技術、普及する技術を開発しようとして研究を進めているはずです。
 しかし、研究者の意図に反して何故普及する技術としない技術に分かれてしまうのか、以前から考えていたことであり、福島県野菜技術普及会での講演を依頼されたのを機会に自分なりに整理してみました。結局、内容的には重複する部分もありますが、以下の条件を満たさない技術は農家に受け入れられない、つまり普及しないのではないかと考えています。皆様はどのようにお考えでしょうか?
  1.真に農家が必要としている技術であるか
  2.試験場・研究者視点の技術となっていないか
  3.技術が農家の栽培体系を根本から変えるものでないか
  4.技術導入による経済的優位性はあるか(技術導入コストと利益)
  5.省力的技術であるか(導入以前より手間がかかる技術でないか)
  6.技術導入による収量低下はないか
 また、これらに加えて技術によっては農家規模(大規模)での実証試験が行われていることも重要と考えられます。
 なお、革新的な技術開発に取り組む際にはこれらに拘っていては目的を達成できないと思われ、また、技術の普及には社会情勢も関係してきますので、技術の開発と普及は難しいものだと改めて感じておりますが、これを行うのが研究者の使命であると考えております。
                                                       (平成22年5月)
福島県農業総合センター所長 
                                     門馬  信二_____
                                   

 


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